守るのは人間 隔離するのはウイルス

新しい社会への道をひらく新型コロナウイルス感染防止策を

 

シンポジウム「新型ウィルスと感染症対策 どう捉え、どう防ぐ」からの呼びかけ
 
日本も世界も、いま、新型コロナウイルス感染拡大の脅威にさらされている。


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、SARS-CoV(2002年〜2003年)、MERS-CoV(2012年〜2018年)に続き、野生動物を自然宿主として平和共存していたウイルスが、世界的人口増加、森林破壊、気候変動、都市化など人間の活動の拡大によって、人間社会に持ち込まれたもの。


100年前のスペイン風邪でのパンデミック、1933年のインフルエンザウイルスの発見、その後のSARS、MERSへの対応を経て、感染防止への対応を学んできたはずなのに、新型コロナウイルスの感染拡大と死者は瞬く間に世界に広がり、収束への見通しも立っていない。


医療・公衆衛生体制、労働法制、教育政策等すべてに市場原理を持ち込み、競争原理と効率・利益至上主義で、自己責任と分断・格差を増長してきた新自由主義の政治と経済が、公衆衛生、医療、介護などあらゆる分野で脆弱性を露呈し、感染と死者の拡大を招いている。


加えて、日本のインフルエンザやコロナ対策機関が、厚労省・健康局・結核感染症課であり、クラスター対策(結核やハンセン病患者を見つけて隔離する、集団感染防止)を基本としていることの問題がある。新型コロナウイルスの感染スピードは、結核菌とは較べものにならないくらい早く、患者を見つけてから隔離するのでは間に合わない。無症状者が震源地(エピセンター)となる感染の拡大に対応するには、患者を見つけてから隔離するクラスター対策からエピセンター対策に切り替えなければならない。直ちに、「患者を追っかけるのでなく、ウイルスを追っかける」対策へ転換しなければならない。


PCR検査を大幅に拡充し、「検査、保護・隔離・治療、追跡、補償」をセットにした対策を、人材、施設、機材、財源を確保して構築しなければならない。


ワクチン開発には安全性を確認する時間が必要であり、効果への科学的な評価と知識を持つ冷静で科学的な対応が求められる。新型コロナウイルスへの対応はまだ継続していく。


「守るべきは人の命であり、検出し隔離するのはウイルスである」認識を共有し、新自由主義の下、自己責任や分断・格差で壊され脅かされてきた命や暮らし、人間の尊厳を取り戻す、新しい社会への道を開いていかなければならない。


科学的視点で歴史からの教訓を生かし、現状を解析し、真実の情報と課題解決への提言を発信し、新型ウイルスと感染に対応できる、一人ひとりの命と尊厳が守られる社会への道を開く取り組みに参加し行動しすることを広く呼びかける。

2020年9月26日 日本科学者会議大阪支部