アスベスト問題の現在

アスベスト(石綿)は天然の鉱石であり、蛇紋石族と角閃石族に属する繊維状の鉱物である。アスベストは鉱石としては塊になっているが、解綿することで容易に繊維化する。この繊維は単繊維になると直径0.02-0.35 μm程度の細さとされるから、現在問題視されているPM2.5 よりも更に直径が小さい。この細さから、容易に大気に舞い上がり、呼吸に伴って体内に取り込まれる。そして、アスベストは体内に蓄積し、悪影響を及ぼしている。

アスベスト被害は、石綿肺、胸膜肥厚、肺がん、中皮腫の原因とされるが、中皮腫、肺がんではアスベスト曝露から疾病の発症までに20~50年の時間差がみられることから、現在明るみに出ているアスベスト被害はおおむね1960~80 年代に曝露した被害が中心になっている。この中で、中皮腫については閾値が存在しないとされており、アスベスト繊維が肺に1 本でも刺さっていれば、中皮腫になる可能性は存在していることになる。

アスベストの産業利用
アスベストはその性能の多様さから、産業界のあらゆる場面で用いられてきた。特に日本では建築材料として多用されてきた経緯があり、現在のアスベスト被害の多くが建設労働者に集中しているのはそのためである。そして、建築材料に多用されてきたアスベストは再び我々の生活に影響を及ぼし始めている。

建築材料として多用されたアスベストは、主にスレートと呼ばれるセメントとアスベストを混ぜ合わせて成形した板に加工されて用いられてきた。また、鉄骨に耐火性能を持たせるためにアスベストとセメントを水で混ぜ合わせて鉄骨に付着させる吹付アスベストも多用された。

アスベストは四度舞う(採掘→材料加工→使用→
解体)
現在、アスベストの産業利用は禁止されているが、過去に使用されたアスベストについては不問にされている。そこで問題になるのは、アスベストが多用された建築物の解体である。建築物は税法上の減価償却期間もあいまって、おおよそ50年で解体されるのが常である。したがって、アスベストが多用された期間の建築物の解体はこれから本格化する。その際、適切にアスベスト粉塵対策がおこなわれれば問題ないが、対策には多額のコストが必要となるために、それを節約する解体業者が後を絶たない。つまり、われわれは今後、再び多量のアスベストが舞う大気を吸いながら生活しなければならない。

本来であれば、国が適切に対応すべき問題であろうが、今日の政治状況を勘案すればあまり期待はできないだろう。気休め程度だが、個人レベルではマスクをする、解体現場付近には近寄らないなどの対策が関の山である。なお、中国やロシアではアスベストを現在も利用しているので、当地に用事があるときは、建築現場にも近寄らないほうがいいだろう。

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