【著書紹介】『独立警察監視機関と公職選挙法──福崎町長選挙介入・不当捜査事件に学んで──』 茶畑保夫著(2020年5月)

JSAO会員 茶畑保夫の新刊を紹介します。
『日本の科学者』<オピニオン>「自由闊達で旺盛な選挙活動は民主主義の基礎」(2017年8月号)及び<ひろば>「警察の不正を監視、監督する独立警察監視機関の創設を──兵庫県福崎町長選挙介入捜査事件の闘いを教訓にして」(2019年7月号)でも提議されています。

 

兵庫県福崎町長選挙(2015年12月1日告示、6日投票)で、兵庫県警が特定の候補者の「票を減らす」ために多数の警察官を動員し、選挙期間中に「捜査」を行うという現憲法下、極めて重大な不当捜査事件でした。又、選挙後は「任意出頭」を求めての連日の呼び出しやストーカー擬いの尾行、張り込み等の不当捜査が強いストレスを与え、精神的な病に陥った人まで出ました。しかし、それを凌駕する地元の奮闘や全国の多種多様な団体・個人からの支援により、不当捜査を跳ね返し、逮捕は勿論のこと誰一人として起訴させずに終結した。

 

警察署協議会、警察監察制度などの自律システムや公安委員会という「管理」機能も働かず、捜査指揮で「期待される」検察庁も最後の人権の砦たる裁判所も戦後司法が戦前を人的・質的に引き継ぐという日本独特の「負の遺産」的状況です。そして、国際的には既に120カ国に存在する人権一般の擁護組織「国内人権機関」も未だなく、法務省人権擁護局・人権擁護委員制度が細々とあるのみというのが日本の現状なのです。
ために、警察が市民運動・住民運動・労働運動などに干渉し、果ては、憲法どこ吹く風で選挙そのものにまで干渉し始め、剰え、一般刑事事件においても、人権を無視した捜査や冤罪が頻発しています。

 

本書は真の民主主義政治実現のために、選挙における主権者・国民の言論活動(選挙・政治活動)を、今こそ全面的に自由化することを強く求めて、

①兵庫県福崎町での闘いを点描し、
②不当捜査の口実とされた公職選挙法の諸課題と国連機関からの度重なる勧告に基づき、戸別訪問やビラ配布の自由化等、公職選挙法の全面的改正を論じ、
③選挙に干渉し、市民・住民運動に介入し、果ては、様々な冤罪事件を惹き起こし、不当捜査を恣にする警察をチェックし、民主的にコントロールする独立警察監視機関を創設する必要性を提起し、
④我が国の学術研究の一つとして、独立警察監視機関を探求する研究者が輩出することを心から願い、紙幅の許す限りの関連判例等の参考資料を掲載する、

という構成となっています。

とりわけ、本書構成が、大部の参考資料を要す形となったのは、斯様な現状にあって必須とされる「独立警察監視機関」の本格的な論考が見当らない中で、今後の研究の切っ掛けとなりうる、現時点で考えられる限りの諸資料を網羅し、後日、この分野の研究を始める方々の一助となれば、との思いからです。

 

「志布志事件が「取り調べの可視化」が進む契機となったように、福崎事件が独立警察監視機関創設を求める声が沸き起こる契機となることを心から期待しています。」(あとがき)


目 次
出版によせて(嶋田正義:元兵庫県福崎町長)

 

序 章
第1章 福崎町で何が起きたのか
 第1項 警察が町長選挙介入・不当捜査
 第2項 人権侵害・憲法蹂躙の「拷問捜査」
 第3項 不当捜査を跳ね返す堂々の闘い
 第4項 福崎事件の時代背景
第2章 「捜査」の口実とされてきた公職選挙法
 第1項 公職選挙法とは
 第2項 公職選挙法規制下の選挙の現状
 第3項 公職選挙法の規制実態
第3章 公職選挙法の抜本的改正を
 第1項 国際人権法(自由権規約)と公職選挙法
 第2項 闘いを教訓に公職選挙法の抜本的改正を
 第3項 併せて小選挙区制や政党助成法の廃止を
第4章 不当捜査を恣にする警察
 第1項 警察の選挙時不当介入・妨害事件の数々
 第2項 警察監視・監督の現状
 1 警察署協議会
 2 監察制度
 3 公安委員会
 4 検察庁
 5 裁判所
 6 法務省人権擁護局・人権擁護委員
 7 弁護士会
 8 その他
 第3項 議会の役割
 1 国会
 2 都道府県議会
 第4項 権力監視を期待されているメディアの現状
第5章 警察を監視する独立第三者機関の創設を
 第1項 不当捜査を監視する必要性
 第2項 世界の警察監視・監督状況
 第3項 独立警察監視機関の創設を
結 章
 筆者関係論考一覧
 参考資料(本文引用判例、憲法、条約、勧告等抜粋)
あとがき