哲学研究会報告「近代科学はなぜ東洋でなく西欧で誕生したか:古代編」

講師:菅野礼司さん

 

【講演要旨】
前回(2018 年 4 月 7 日)、近代科学の成立の経緯と意義について報告する予定が、序論で終わってしまった。今回はその続編を報告する。

今回、この課題を考察する基本的観点と論点は次の通り:
 

(1) 科学は思想・文化であり、その文化圏(民族)の自然観と思考形式を反映、 (2)その基礎は風土(自然風土と文化風土)にある、 (3)科学・技術の性格は、社会制度に規定された科学の目的と科学の担い手に依存、(4)科学の発展・進歩には異文化圏(民族)による科学の継承と発想の転換が必要。


これらの観点から、東洋(中国とインド)、および西洋(ギリシア―アラビア―ラテン-西欧)を中心に科学・技術の発展過程を比較し、近代科学が西欧で誕生した経緯と理由を論ずる。

重要なことは、科学の進歩・発展は一つの文化圏に閉じていては限界があり停滞するということである。科学の進歩には、その発展段階に応じた自然観と思考形式 が求められるが、それに応えうるには新たな自然観と思考形式をもった異なる文化 圏(民族)に科学が移行し継承されてこそ可能である。そのことが科学の発展史を 通して明らかになる。西では古代ギリシアからアラビア(イスラム圏)・ラテン・ 西欧へと、科学の発展段階にマッチした文化圏によって引き継がれ、近代科学が誕生した。東洋では、中国・インドともに、科学・技術の継承はそれぞれの文化圏内 に閉じていたために、尚古主義に陥って自然観と発想が固定化された。そのために、 中世まで先進的であった科学・技術の進歩は停滞した。

1.比較項目
  ◎自然観:宇宙観、物質観、生命観
  ◎思考形式:論理学、数学
  ◎科学の方法:分類方、実証法、数学記述
  ◎科学の社会的地位:科学・技術の役割と担い手
  ◎科学と宗教の関係 ◎科学・技術の継承と発展

2.古代文明における科学と技術:技術から科学へ
 古代の4大文化圏の技術的知識を受け継ぎ、それを昇華して自然を合理的に把握しようとする古典科学が生まれた。この時期は古典科学の時代と呼ばれ、西暦前数 世紀のほぼ同時代に、ギリシア、インド、中国に古典科学(自然学)が誕生した。
 これら3大文化圏における状況を、上記の比較項目についてその特徴を報告した。 中国、インド文化圏では科学的文化は閉じていた。そのため科学・技術は停滞気味。
 科学・技術が発展するために必要なことは、生産力(食糧)が豊富にある、生活に余裕がある、技術が発達する、そして都市が出来る、ことである。この条件を満たしていたのが、古代四大文明が生まれた理由である。

今回は“古代文明における科学と技術”を報告した。この時代は技術先行時代か ら科学へと進展した時代であるが、まだ科学とはいえない「自然学(自然哲学)」である。“中世における科学の発達”は、次回に報告する。

【参加者の感想】
発表で面白かったのは、課題を考察する基本的観点と論点でした。科学史につい て私自身の勉強不足で内容は難しく追いつかなかったが、興味深くてこれを機会に勉強を深めたく思いました。

【討論】
 ◎各人はその人固有の価値観、判断基準を持っているが、それらは個別的な経験から得られたものである。科学者は経験から、帰納的に普遍性法則を導くことを専門職業として行っている。
 ◎ギリシアは論理性を追究した。
 ◎ギリシア市民は自由な時間をもっていた。更に、ギリシアの奴隷は高い知識を持っていた。これらのことが、ギリシアで哲学・科学を生む素地となった。等々の討論が交わされ、次回の中世時代編の講義に期待することになった。

 

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