【哲研4月例会報告】「近代科学はなぜ東洋でなく西欧で誕生したか」 第5回目 近代科学の形成:科学革命 新たな科学のための哲学

【要旨】 菅野 礼司
(参考「日本の科学者」5月号(2019) p54:菅野礼司、「科学者つうしん」欄 ”大阪支部哲学研究会報告「近代科学はなぜ東洋でなく西欧で誕生したか」(吉岡書店2019)”

14世紀ルネサンス以後、観念論的スコラ哲学を排し、事実に即した学問が芽吹き始めた.

 

  1. 新たな科学のための哲学:F.ベイコンのデータに基づく帰納法.R.デカルトの機械論的自然観の提唱、自然科学の演繹的体系化と普遍数学(座標幾何学)の創始.
  2. 近代科学の形成へ:ガリレイの功績
    地動説の擁護、自由落下法則、慣性法則の発見(正確な法則はデカルトによる).仮説帰納法の開発.
  3. 近代科学の基礎となる自然観:アリストテレスの目的論的自然観に代わる新たな自然観が誕生した.それは真空の存在、機械論的、原子論的、数学的自然観.これらは相互に関連しつつ成立.
  4. デカルト物理学:物理学の対象を物質の運動に限定し、基礎原理を基に物理学の公理的演繹体系のモデルを構築.だが宇宙を充たす媒質流体を仮定、その渦動運動で全自然現象を説明-失敗.
  5. 惑星に関するケプラーの法則の意義:円のドグマからの脱出-天体の運行を力学の対象に.天上界と地上界の壁を除いて統一.万有引力を示唆.
  6. ニュートンの総合:先人科学者の成果を集大成して『自然哲学の数学的原理』(『プリンキピア』).演繹的力学理論の体系化、万有引力の提唱.「数学的実験科学の方法」を完成.万有引力と力学理論を巡るデカルト派とニュートン派の長期論争-ニュートン力学の勝利.「プリンキピア」の意義:近代科学の成立は第一科学革命.科学の方法の規範,自然観の転換、思想革命.宗教から科学の独立と社会的地位の逆転.
  7. 科学革命は二段階で達成:理論の全面的転換は、新旧理論の中継ぎとなる中間段階が必要.その視座に立って見ると、以前と異なる自然の仕組み見えてくる.ガリレイとデカルトが中間段階.
  8. 近代科学の完成へ.近代科学の論理.

【参加者の感想】
“物理学と化学の形成と歩調を合わせて、近代生物学が築かれていった”と菅野は著書*で述べている(p225~231)。つまり、人体解剖図、血液循環説、(顕微鏡の発明による)生物の細胞の発見(1665)、細胞が生物の基本単位 (1838)、リンネ(1707~78)の生物分類学、ダーウインの「種の起源」(1859)、メンデルの遺伝の法則(1865)、と生物を理解する多くの進歩・発展があった。私がタンパク質を研究対象にすると決めた時、エンゲルスが“生命は蛋白体の運動様式である” (1878)と言うことが出来たわけを知りたくて、アミノ酸、酵素、タンパク質の発見の研究歴を調べた。19Cの
有機化学の進歩はアミノ酸の発見を導き、窒素を含む物質が生物にとって重要であると認識され、その物質を( ギリシャ語の第一人者prōteîosから)protein(タンパク質)と名づけられた (1838)ことを知って、エンゲルスの言葉を納得したものである。近代物理学の進展の基礎にある自然観は、現在の生命科学につながる生物学の基礎を築いたことを、今回学んだ。

【討論】次のような意見討論が交わされた。
◎当時の背景となる自然観が、物理モデルを作る際に暗に影響しているところが興味深い。
◎万有引力をめぐるデカルトの近接作用とニュートンの遠隔作用の論争が興味深い。今日では近接作用だが、当時それはブラックボックスだった。しかし、作業仮説としての遠隔作用は有効だった。科学の発展に作業仮説は必要だということを示している。
◎新しい現象の発見や予言は、実験で実証された。
◎仮説が理論となるためには演繹による予言が大切である。
◎科学の発展に、演繹理論が大切である。
◎ダークマターとは何か。重力だけはある、がそれ以外には何もわかっていない。
◎イギリスとフランスの思考に違いがある。今も数学はフランスが強い。
◎測定技術の進歩が大切である。
◎科学史を学ぶと科学の深さ、興味が深まる。高校の教科に取り入れて欲しい。