連続講座が始まりました&感想・意見

 

大阪支部独自企画「未来をひらく 科学講座」の第1シーズン「生命のしくみ」が始まりました。


10月26日、池内 了 名古屋大学名誉教授による第1講座「私たちは科学といかに付き合うべきか」が開催されました。60名定員の会場に59名が参加(科学者会議会員:21名、非会員:38名、院生・学生:4名)し、熱心に講義を聞き、活発な質疑応答を行いました。


第2回講座「生命の不思議の世界」は11月23日午後1時から国労大阪会館で行われます。

 

連続講座の紹介は→こちら


池内了先生の「私たちは科学といかにつきあうべきか」感想・意見

関西技術者研究者懇談会 森田喜久男


 科学の方法論および科学者の姿は、現代では昔の理念的な科学者像とは全く変容している。以前の科学者は、ほとんど個人の発想で、自分の好きな分野を、自由にとことん本質追求する、いわば典型的な科学者像がロマンチックにイメージされていた。勿論そういう科学者の姿は好奇心だけに夢中になり、論理のみで人間性に欠けるなど批判もあったであろう。ところが現代の科学および科学者は個人よりも集団で大きなテーマに取り組み、商業主義・競争原理・科学技術政策という大きな社会的圧力に晒されて科学そのものが変質し、科学者自身も科学者魂や科学者の責任感を喪失している状況に陥っている。


 科学者というよりも企業の技術者として生きてきた自分の経験を踏まえて今回のテーマに向き合いたいと思う。そこでは自分の技術分野、技術の動向および社会の変化との関係、また科学技術者の社会的責任などに考えが及ぶ。私は鉄鋼材料の開発と品質向上に携わってきたが、中でも製品の大型化に対する技術的対応および使用される材料の高温および低温強度の向上が大きな課題であった。具体的には、原発向け大型部品の製造技術やタービン材料の高温強度の向上に取り組んできた。1980年代に石炭火力発電の高効率化を狙って、より高温に耐える材料が求められ熱効率を向上したUSC石炭火力発電が実用化されて地球環境にやさしい技術と言われていた。しかし世の中の動向は脱原発、脱石炭火力に舵を切るように変化して行った。技術開発の成果により製品の高性能化が達成されて、一時は社会に貢献するように見えても、社会的要請が変化すれば時代遅れの技術と見なされる事例はよくあることである。技術者の企業内における役割と言うのは、会社や技術内容や業界の盛衰に左右される事がよくあり、その中で技術者としての自己の確立・自立が求められるのであるが、いかなる環境においても技術者としての矜持を保持するのは大変な努力を要すると思われる。技術者の社会的責任についても、製品の行く末まで責任を持てということだが、これは仕様書の段階で歯止めをかけるしかない。


 そこで、科学・技術者として如何に生きるかを考えるに、世の中の大きな動向を理解して、その中の自己の位置を定めるのが大切ではないかと考えるようになった。今なら地球環境の維持・改善に資する科学・技術が求められ、その中で科学・技術者として如何に行動するかを大きくとらえる事が大切ではないかと考えている。