【哲研10月例会報告】学生と学ぶ『慰安婦』問題・原発問題

講演 神戸女学院大学 教授 石川康宏さん

 

若者が国の主権者として社会問題、政治問題を学ぶことはとても重要であるにもかかわらず、若者の投票率は低い。今回は、「大学における政治・社会教育論―若者がどのようにして社会問題、政治問題について、関心を持ち、理解を深めていくか」をテーマとした。


石川ゼミでは、学生と共に2004年から2011年まで3年生ゼミの学生と韓国・ナヌムの家を訪れ、2013年から2019年までは福島の原発被災地を訪れ、2012年は1泊で福井の原発反対運動を学びに出かけた。2019年は沖縄に行き米軍基地と沖縄県民の被害について調査に行くなど、ゼミ以外でのフィールドワークも多い。これについて、スライドを使って話された。石川ゼミでは3年生の4月から座学を重ね、夏休みに3泊4日で現地を訪れ、3年生後期に原稿をまとめ、4年生は各自個別に卒論に取り組むのが2年間の基本のスケジュールである。こうした学びの取り組みを「慰安婦」問題については5冊の本、原発問題については4冊の本にまとめている。

 

「『慰安婦』と心はひとつー女子大生はたたかう」かもがわ出版 他


講演後、「大学教育の中で、どのようにして、政治のテーマを扱うか」と言う質問に対して、石川さんは「意見の対立が大きな問題については、両極の情報に接し、たとえば歴史認識にかかわっては靖国神社にも連れて行く。どういう意見が正しいかは学生が自分で調べてこたえを出す」との事である。意見の対立内容を、学生自身が主観的にではなく、客観的に把握する。フィールドワークはそれを把握する機会になる。これは、対立する仮説について、どちらが正しいか、その根拠となる実験や観測データを調べ、評価するという理系の研究者の方法論と全く同じである。また、哲学としてこの立場を見ると、現実のデータから出発するという意味で唯物論の立場である。「教育の政治的中立」という考えは、教育基本法第8条2項においては政党に関してどちらの立場にも付かないという意味であるが、多く見られることは「それぞれの説の正否を根拠データと比較して、突き詰めて評価することを避けようとする」消極性の結果、それぞれの説を検証無しに現実データの上位に置いてしまうという意味で、観念論になる。


次に、「学生が、自分たちが体験したことを書物にする、あるいは大学の外で講演する」という、非常に主体的な行動がどこから生まれるか、という質問に対して、石川さんの話では、外部からの講演依頼があって、学生が自主的にそれに応えているとの事であり、また与えられた答えでなく、自分で導いた答えだからそれを発表することに自信をもっているとのことだった。こうして大学以外の場で、社会問題に真剣に取り組む大人に接することが、さらに学生を成長させるとも。
理系の教育では、通常、国内外の学会で院生、学生に研究発表をさせる。こうした体験が院生、学生に研究室の中だけでは得られない多くの学びを与えることは、理系の教員が体験しているが、石川さんの話は、理系、文系を問わず研究室の外部の人との交流が学生の学習の発展、飛躍の為に重要だと改めて認識した。


若者がどのようにして、社会問題、政治問題について、関心を持ち、理解を深めて行くかという問題に対する教育方法論は、結局、文系も理系と同様の方法論をとるというのが、答であった。フィールドワークで実際を知るというのは、実験、観測に参加するという意味で、非常に重要であると感じた。

河野 仁

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